北海道には、シマフクロウ・ヒグマ・タンチョウ・エゾシカ・キタキツネなどたくさんの野生動物が生息しています。また、天然記念物や絶滅危惧種に指定されている動物も多く、保護や環境保全などさまざまな取り組みを行っています。大自然の中で思いがけず野生動物に遭遇することもあると思いますが、接し方には十分な注意が必要です。特にヒグマに関しては毎年多くの目撃情報が流れます。クマは力が強く、突然出会うと攻撃することもあります。そのため、クマに会わないための工夫や、クマに出会ったときの注意事項を知ることが大切です。
日本に生息する熊
現在、世界には8種のクマがいます。日本国内に生息する熊は、北海道に生息するヒグマと、本州以南に生息するツキノワグマの2種類です。昔は、沖縄県を除いた日本全国にクマが生息していたようです。
ツキノワグマ
ツキノワグマは、日本が大陸と地続きだった30~50万年前の氷河期に、大陸から渡ってきたと考えられています。現在日本に生息するツキノワグマは、推定個体数 1 万 5 千頭から 2 万頭程度と推定されています。東北地方や中部地方では 6 割以上の地域に、関東、近畿、中国地方では 3 割程度の地域に、四国は限られた地域にだけ生息しています(九州ではすでに絶滅したと考えられています)。 大きさは、個体差や季節の変動が大きく、小さい場合は約40キロ、最大で約130キロになります。一般的に体長110cm~150cmくらい、体重は80~120kgくらいといわれています。ツキノワグマは雑食性ですが、植物を主食としています。春には、芽吹いたブナの葉やさまざま植物を食べ、夏はアリやハチなどの昆虫を多く食べます。秋になると、ドングリなど木の実をたくさん食べるようになります。クマは体が大きく、その分多くのエネルギーを必要とすると共に、高い移動能力も兼ね備えています。なわばりを持たず、自由に移動することによって、必要な食物を得ています。
ヒグマ
ヒグマは北半球に広く生息するクマの一種で、大型の哺乳類としては、きわめて広い分布域を持つ動物として知られています。日本では、数万年前までは本州でも生息していたことがわかっていますが(ヒグマの化石が見つかっています)、今は北海道全域に生息しています。地球が温暖になって本州の植生が変わると、その変化についていけずに、あるいはツキノワグマとの競争に敗れて、本州に生息していたヒグマは絶滅したと考えられています。先住民族であるアイヌの人々は、ヒグマを神様として敬い、祈りと感謝を捧げてからクマ狩りをし、肉や毛皮などを利用させてもらっていたようです。現在、国内の生息数は 3,000 頭前後と考えられ、とくに観光地として有名な知床半島は生息密度が高いことで知られています。大きさはオスは体長220cm~230cm、体重120~400kg、メスで50~200kgにもなる大型哺乳類です。
ヒグマは雑食性で、植物を主食としています。ヒグマの食性はそれぞれの季節、それぞれの場所で利用できる食物に柔軟に対応しています。お互いを排除し合うような固定したなわばりをもたず、重なり合った個々の行動圏を持っていることが明らかになっています。本来クマは人間を極力避けて行動する動物です。広範囲にわたって移動するクマですから、その行動圏に人間の生活圏(街や農地など)が入っていることも少なくありません。
人間とクマの共生を考えるとき、広い行動域を持つクマの特性を十分に考慮する必要があるでしょう。
ヒグマの特徴と能力
鼻はとてもよく利きます。耳も発達しており、音に敏感です。ヒグマは通常、音とにおいで安全確認をします。目は人と同じ程度ではないかと考えられています。薄暗い場所でも活発なことから夜目は利くのではないかと考えられています。また、動くものに対しの反応が非常に良いのが特徴です。
ヒグマの生態
1~2歳まで母親と一緒に行動し、4~5歳になると繁殖が可能になります。
春(3~5月)冬眠から目覚め、夏にかけて(5~7月)に繁殖期に入ります。秋(10~11月)に食いだめし、冬(12月~3月)冬眠に入ります。出産もこの時期のようです。
ヒグマにまつわる事件
「ヒグマは通常、人を襲わない」とされていますが、ヒグマが人を襲うとすると、次の事が考えられます。
- 「不意の遭遇」によるもの(クマが驚いて人を襲います)
- 子グマを守るため(母性本能)
- クマの「獲物」に接近した場合(自分のものへの執着心が強い)
- 傷を負い追われている場合(防衛本能)
- 「人間のゴミや食料」などの味を覚えたクマが人を襲う(一度食べた人為的な食物に関して、ヒグマは「執着」「常習化」してしまいます)
ここではクマに襲われた事故について検証します。
苫前事件(三毛別事件)
1915年、道北の留萌管内苫前村三毛別六線沢(現在は苫前町三渓)の開拓集落で起きたヒグマによる連続襲撃事件で、日本史上最悪の被害を出した事件とされ「苫前村三毛別事件」として知られています。エゾヒグマが数度にわたり民家を襲い、開拓民7名が死亡、3名が重傷を負い、最後は討伐隊が組織され、熊が射殺されたことで事態は終息したというものです。
事件の検証
まず熊はトウモロコシを狙って人里に近づいています。トウモロコシの味を知ってしまった熊は餌付けされた状態になったと考えられます。最初に並べたクマが襲撃する5番目のタイプです。
次に、トウモロコシを食べようと窓に近づいたヒグマの姿に驚いて声を上げ、これがヒグマを刺激し、二人が襲われました。これは1番のタイプです。
そしてクマはじぶんの獲物となった遺体を取り返そうと再び民家を襲います。これは3番のタイプです。このとき銃を持ち込んでいた男が撃ちかけたのですが仕留めることができませんでした。このときにはもう熊は、人間の無力さと人肉の味を知ってしまったと考えられます。そして、人間を獲物と認識し、勘の鋭いクマは守りのいない状態の家に向かい、次々と殺戮を繰り返したのです。
対ヒグマのリスクマネジメントの鉄則は「早期発見・早期対処」です。この事件はクマに対する正しい知識と、リスクマネジメントを心掛けなければいけないことを物語ってくれています。
この事件を題材に『慟哭の谷 The Devil’s Valley』が出版され、作家の吉村昭氏は小説『羆嵐』にまとめています。
苫前町立郷土資料館
当時の様相を一部復元し、またヒグマと人間との関わりについても写真や図表を使って紹介しています。
- 所在地
- 苫前郡苫前町字苫前393番地の1421Google マップ
- 電話番号
- 0164-64-2954
- 開館期間
- 5月1日〜10月31日
- 開館時間
- 午前10時〜午後5時
- 休館日
- 月曜日(祝日の場合は開館し、翌日を休館)、夏休み期間中は無休
- 観覧料金
- 【町内個人】小・中学生:50円、高校生・一般:100円
- 【町外個人】小・中学生:100円、高校生・一般:310円
- 【団体(10名以上)】1人につき個人料金の該当する区分の3割引とする。(10円未満は切り捨て)
- ※小学校就学前の者は無料
三毛別羆事件復元地
実際事件が起こった六線沢には町民の手によって当時の情景が再現されています。訪れる際は、音が出るものを携帯し、人がいることをヒグマに分からせる対策について講じていただくことをおすすめいたします。ここはクマのテリトリーとなっています。
- 所在地
- 苫前町字三渓Google マップ
- 開館期間
- 4月下旬 ~10月末
- 開館時間
- 開設時間はありませんが夜間の見学は危険ですので、ご遠慮ください。
- 休館日
- 月曜日(祝日の場合は開館し、翌日を休館)、夏休み期間中は無休
- 観覧料金
- 無料
- ※入場者数を把握するため、復元住居内に「来訪者受付簿」が設置されています。
日高系・福岡大ワンゲル事故
1970年7月、日高山系カムイエクウチカウシ山(標高1979メートル)で起きた福岡大学ワンダーフォーゲル部のヒグマ事故は、若い学生5人中3人が死亡する結果となり、登山者や一般市民に大きな衝撃を与えました。
事件の検証
ヒグマはまず学生のテントの外に置いてあったザックをあさっています。このとき学生はヒグマの恐さを知りませんでした。ヒグマに対する知識がなかったことは悔やまれます。また、ザックをあさったため、「人間のゴミや食料」などの味を覚えた可能性があり、最初に並べたクマが襲撃する5番目のタイプとなりました。
その後クマのすきをついてザックをテントに入れてしまいました。ザックはこの時点でクマの「獲物」となっているためタイプ3も該当することとなりました。焚き火やラジオの音量など上げるとクマは30分後くらいに立ち去りました。この時点で、まだクマは人間を恐れていたのではないかと思われます。しかし獲物への執着心からまた熊はテントに現れ、人間とテントの引っ張り合いをし、ヒグマはテントを倒し、テント内にあったザックをあばいていたようです。ここでクマは人間より、獲物のザックに興味が向いていたものと思われます。クマが去った後、5人はテントやザックを回収してしまいます。クマは獲物への執着が強いため、またテントに現れ、テントに居座ったので5人はテントを放棄し下山しました。下山途中クマに遭遇し、5人は逃げましたが、その途中2人が死亡し、1人ははぐれてしまいました。のちにこの1人も遺体で発見されましたが、この1人は日記をつけていたという事です。
この事件はクマの獲物に対する異常な執着がまねいたと考えられます。最後まで人よりもザック等にクマは執着していたようです。そして動物の本能(逃げるものを追う習性)から、人を襲ったと考えられます。
中札内村の日高山脈山岳センター
このときの加害クマの剥製が教訓的意義で展示されています。
住所
- 中札内村南札内713Google マップ
- TEL
- 0155-69-4378
- 開館時期
- 4月下旬~10月末
- 開館時間
- 10:00~17:00
- (6月下旬~9月は20:00まで開館)
石狩沼田幌新事件
記録されたものとしては日本史上2番目に大きな被害を出した事件で、開拓民の一家と駆除に出向いた猟師が襲われ、5名が死亡、3名が重傷という痛ましい事件です。
事件の検証
この事件は後になって被害にあった一行が通りかかった場所にはヒグマの獲物である馬が埋まっていたことがわかりました。これはタイプ3による事件だったことがわかります。また、この頃はクマによる被害も多く、クマの習性などまだ解明されていなかったとも思われます。
ふるさと資料館分館(ほたる学習館)
この時の熊の皮はしばらく幌新小学校に展示されていましたが閉校に伴い、幌新会
館に保存されていました。現在はふるさと資料館分館に展示されています。
住所
- 〒078-2225 北海道雨竜郡沼田町字幌新381番地1
- 問合わせ先・担当窓口
- 沼田町教育委員会教育課
住所:〒078-2202 北海道雨竜郡沼田町南1条4丁目6番5号
直通電話番号:0164-35-2132
ファクシミリ:0164-35-1210 - 開館時期
- 4月下旬から11月上旬の土曜日、日曜日、祝日
※その年の状況によって期間が変わります。 - 開館時間
- 9:30~16:00
- 料金
- 無料
熊の入った家
昭和61年(1986)9月16日の未明、羅臼町海岸町の民家の台所にヒグマが入り込み、台所を荒らして立ち去ったという事件です。このときこの家には7人の住民が居ましたが一人も被害はありませんでした。
事件の検証
クマの気配を感じた住人はクマに気づかれることなく1階から他の家族の居る2階へ逃げました。家族は2階から物を投げたり、目覚まし時計のベルを鳴らしたり、二人で大声を出したり、あらゆる手を使ってみましたが、クマはただ横目で見るだけで動く気配はなかったそうです。クマが立ち去ってから一家は避難したそうです。
このようにクマを刺激せず(音を出して人間がいることを知らせはしましたが、それ以上のことはしていません。)クマが居なくなるまで逃げなかったことが、クマに襲われなくて済んだ要因だと思われます。
クマはその後射殺されたようです。「人間のゴミや食料」などの味を覚えたクマは、射殺しなければ、何度でも民家を襲うようになると思われるため、射殺は仕方のないことだったと思います。
こちらのサイトで詳細が確認できます。また、実際に見ることもできます。
ここなら安心!クマ観察施設
今度はクマを安心して観察できる場所をご紹介します。
登別クマ牧場
〒059-0551 北海道登別市登別温泉町224
昭和新山熊牧場
- 住所
- 〒052-0102 北海道有珠郡壮瞥町字昭和新山183
- TEL(0142)75-2290 FAX(0142)75-2977
- 入場料(税込)
- 一般料金
- 大人(中学生以上) 850円
- 子供(6才以上) 500円
- 団体料金(25名様以上)
- 大人(中学生以上) 750円
- 子供(6才以上) 400円
- 営業時間
- 元旦 10:00~15:00
- 1月2日~3月31日 8:30~16:30
- 4月 8:30~17:00
- 5月~10月 8:00~17:00
- 11月~12月30日 8:30~16:30
- 大晦日 8:30~15:00
ここではクマの愛らしい姿を見ることができます。
くま牧場(大雪山ベアセンター)
- 住所
- 〒078-1733 北海道上川郡上川町栄町40
- 01658-2-2133
- 入場料
- 無料
- 営業時間
- 夏季4月28日~10月7日
- 09:00 ― 17:00
- 冬季10月8日~4月27日
- 09:00 ― 16:00
熊だけを集めた動物園です。ここでも熊の表情や愛らしいクマの姿に出会えます。
もしもクマに出会ったら
クマは臆病なので、こちらが出会わないように心がけることで、ほとんど完全に出会わずに行動することが可能です。鈴を付けて歩くとか、笛を鳴らす、手を叩く、声を出すなどこちらの存在を知らせることで、ヒグマのほうから離れてもらうことができるようです。鈴・ラジオは人の存在を知らせるためには有効ですが、周辺の音を聞き取りにくくし、気配を感じることができないこともあります。音を鳴らすのと同じくらい、周辺の音や気配を感じ取れるよう気を付けてください。それでも、実際にクマに出会ってしまったときのために、覚えておきたい対処法を紹介します。ただし、このとおりに行動すれば完全に安全が保証されるというものではありません。
遠くにクマがいることに気がついたとき
- 熊に気づかれないように、落ち着いてゆっくりその場から離れましょう。
- もしクマが気づいていても、大声を出したり、走って逃げてはいけません。クマが驚いて攻撃してくるかもしれません。常にクマの動きを監視しながら落ち着いてその場を離れましょう。
- 熊がこちらに気づいて近づいてきたら、クマに人間だということを知らせるため、石や倒木などに上がり、大きく腕をふりながら、穏やかに声をかけると、大抵はそのまま立ち去るでしょう。
- 熊は臆病なため、人間と判って近づくことはほとんどありませんが、明らかに人を認識しながら接近してきて、逃げ切れそうになければ、石の上や倒木の上などに立ち、自分をできるだけ大きく見せて、強い調子の声で威嚇します。石を投げつけるのも試みの一つ。棒でも何でも戦う武器を用意できれば手に取る。クマスプレーがあれば発射可能な体制に準備。4m以内になって更に近づいて来るようであって、クマスプレーを持っていたら、全量を一気に鼻と目に当たるように噴射します。
近くにクマがいることに気がついたとき
- 落ち着いてゆっくりとその場から離れましょう。その際、クマに背を向けずに、クマを見ながら、ゆっくり落ち着いて後退してください。
- 熊がこちらの気配を感じているようなら、ゆっくり両腕をあげて振り、穏やかに話しかけましょう。すぐそばに立木や大きな石などがれば、クマとの間にそれを置く位置関係に静かに移動(万一の突進に備えて)してください。クマ撃退スプレーを持っていれば、噴射の準備をしましょう。
- もしクマが気づいていてもこちらの行動に興味を示していないようであれば、ゆっくり両腕をあげて振り、穏やかに話しかけ、クマから目を離さず、クマの行動を監視しつつ、ゆっくりと後退。その場から立ち去りましょう。
- 熊は臆病なため人と判って近づくことは稀です。上記の行動でほとんど対処可能と考えられますが、万一攻撃姿勢をとるとすると、近くに子熊がいるか威嚇のためと思われます。穏やかに声をかけつつ、相手の動きを見ながらゆっくり後退してください。
- 突進が止まらず、もはや3~4m(クマスプレー射程距離内)に迫った場合。クマスプレーがあれば、全量を一気に鼻と目にあたるように噴射します。スプレーがない場合、あるいはスプレーが効かなくて攻撃を受けてしまったら、うつ伏せになって顔と腹部を守り、首の後ろは手を回して保護します。バックパックがプロテクターになります。転がされても、その勢いで元の姿勢に戻ること。
突発的な遭遇のとき
- ゆっくり両腕をあげて振り、穏やかに話しかける。すぐそばに立木や大きな石などがれば、クマとの間にそれを置く位置関係に静かに移動(万一の突進に備えて)してください。これでクマは立ち去ると思われます。
- 突発的に走って逃げるとか、大声でわめくような行動は、ただでさえびっくりしているクマを更に怯えさせ、防衛的攻撃に移らせる可能性があります。唖然として立ちすくんでいるのが、一番良いかも知れません。
春や秋は特にヒグマに注意
ヒグマに襲われる被害の大半は、冬眠から明けて行動を開始する4月~5月の期間と、冬眠に向けて食いだめをする9月~10月の期間に起こっています。この期間中は特にヒグマの行動が活発となっているため、北海道では「春のヒグマ注意特別期間」(4月~5月)と、「秋のヒグマ注意特別期間」(9月~10月)として注意を呼び掛けています。また、ヒグマが頻繁に市街地に出没したり、ヒグマによる人身事故が発生した場合に「ヒグマ注意報」「ヒグマ警報」を発出し、SNSなどを活用して情報発信しています。
北海道にはヒグマの生息地が多数存在しています。特に野山などではクマに遭遇する危険が高まります。ヒグマ対策を十分に行ったうえで入山する、もしくは入山自体を控えるなど特に注意するようにしてください。
まとめ
世界中のほとんどのクマは、いま、絶滅の危険にあるといわれています。北海道でもヒグマの一部個体群は「絶滅のおそれのある地域個体群」となっています。とはいえ、北海道では毎年ヒグマの目撃情報が流れます。クマがヒトのそばに出てくるようになったのは、森の生態系に何らかの変化があったからだと言われています。雄大な自然は北海道らしさを象徴する観光地としておすすめの場所ではありますが、野生動物の生活の場でもあります。観光地には「クマ出没注意」等の看板がいたるところに見られます。昔から残飯を山に捨てると、クマが味をしめて危ないと言われてきました。これはとても大事なことです。観光の際は、マナーを守って自然環境に接していただきたいと思います。
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